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ヴィーガンは骨折のリスクが高い

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以前、ヴィーガンとなった理由として健康になるためと答える人が多い一方で、摂取できる食物に制限を課すヴィーガニズムは本質的に健康になるためのものではない、と書きました。

これと関連して、ヴィーガンの健康リスクを述べた記事を紹介します。オックスフォード大学において、1993年から継続的に45,000人の健康調査を行っているそうです。これは当初の目的としてはガンのリスクを分析するためのものだそうですが、結果としてそれ以外のさまざまな病気や怪我のリスクも検討できるものとなっているようです。

https://www.express.co.uk/life-style/health/1490555/vegetarian-vegan-diet-breaking-bones

これによると、ヴィーガンは肉を食べる人に比べて尻の骨を骨折するリスクが2倍であり、ベジタリアンはその他の骨を折る確率が25%高いそうです。

原因としては、動物性のものを食べないと、カルシウムやタンパク質が肉食の人に比べて不足しやすくなるからだと考えられています。

とは言っても、ヴィーガンの骨折数が非ヴィーガンより多いのは、10年・1000人あたりの換算で20件だけ。単純な割り算はできないでしょうが、1年あたりでは10で割って、1000人に2人です。確かにリスクが高まっているということは言えるでしょうが、45,000人の調査で、そのうちヴィーガンの人数は一部に限られているでしょうから、偶然の可能性も高いと思います。

何より、記事の中で語られてもいますが、現在はヴィーガンの生活を行っていてもカルシウムをきちんと摂取する手段は容易に見つけられます。十分な配慮があれば、という留保付きですが、栄養面でのリスクは引き下げることが可能です。

なお、イギリスではヴィーガニズムの普及により、2019年上半期に消費された家畜の数が以前より360万匹減ったそうです。同時に、スーパーマーケットの赤肉販売額は、年間で1.85億ポンド(約280億円)減っています。興味深い数字として、追っていきたいものです。

ヴィーガニズムの推進力は健康志向

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立教大学の学生とネオマーケティング株式会社による、全国400人のヴィーガンやベジタリアンを対象としたインターネット調査の結果が公表されています。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000227.000003149.html

ランダムに400人を抽出したわけではないので、日本人の何パーセントがヴィーガン・ベジタリアンかといった議論はできません。また、本調査では回答者の11%がヴィーガン、54%がベジタリアンでしたが、このおおよそ1対4という比率も、どのように回答者を募ったか分からないため、偏りがある可能性があります。

それでも、国内のヴィーガンやベジタリアンの傾向について把握するのに有用な情報が含まれているようです。

ヴィーガンの過半数は健康志向が理由

私がとくに関心をもったのは、ヴィーガンになった理由を回答したものです。過半数(56.8%、複数回答)のヴィーガンが、選択の理由を「健康を意識するようになったため」と回答しています。次いで多いのが「環境問題に関心を持ったため」(38.6%)、「アニマルライツに関心を持ったため」(29.5%)となっています。

ヴィーガンやベジタリアンになる理由はいろいろあるものの、倫理的な理由でヴィーガンとなった私としては、どのような理由であれ結果的に動物の苦しみが軽減されるのであれば歓迎すべきと考えています。しかし、健康を意識するためにヴィーガンになった人の割合がこれだけ多いことを知ると、多少の問題を感じます。

ヴィーガンになったりベジタリアンになったりすることは、健康になるための手段としては不適切だと考えています。当たり前のことではありますが、摂取する食材の種類を制限すると、摂取できる栄養の種類も制限されるからです。

たとえば、ビタミンB12は植物性の食品だけでは欠乏しやすい要素です。他にも、ヴィーガンの生活を送っていると、タンパク質はもちろんですが、鉄分やカルシウムも摂取量が減ってしまいがちです。ヴィーガンになるためには、栄養にそれなりに気を使う必要があるのです。

もちろん、普段肉ばかり食べている人の場合は、野菜を多く食べることでより健康になるでしょう。それでも、これは結果としてベジタリアン等の食生活に「近づいている」というだけで、肉類も多少食べたほうが健康は維持しやすいはずです。肉食を断てば健康になるというわけではありません。何らかの体質的な問題や病気がない限りは、ヴィーガンやベジタリアンの食事は健康になるための手段としては不適切です。

肉を食べなければ健康になる、ということはない

もし、ヴィーガンになったほうがいい理由として健康が最大のものと認知されているとしたら、これはヴィーガニズムやベジタリアニズムを推進したい人にとっては、危うい状態です。ヴィーガンやベジタリアンになることで健康になるのはよほど特殊な体質・条件にある人だけで、そうではない普通の人が栄養のことをあまり考えずに動物性のものを断つと、不健康になることは目に見えています。

ヴィーガン・ベジタリアンになる理由が「健康」だとすると、「健康になれない」と分かった時点で理由はなくなります。もし、ここから課題が一般化されて、ヴィーガニズムやベジタリアニズム自体が不健康なものとして非難されるようなことになれば、倫理的な理由によるヴィーガニズムの理解にも影響が及びかねません。

健康以外にもヴィーガンになる理由はある

そうならないためにも、健康になりたいという理由でヴィーガンやベジタリアンになろうとする人に対しては、あえて警鐘を鳴らしたいです。ヴィーガンになっても、健康は増進されません。

しかし、健康なままでヴィーガンになることはできます。ぜひ、健康以外にヴィーガンになる理由があるということ、一考いただければと思います。

ビーガン検定はヴィーガニズムの一部しか捉えていない?

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ヴィーガン、ヴィーガニズムについての理解が深まるのは善いことだと思いますし、細々とではありますがそのために私もここでときどき情報を提供しています。ただ、これはいかがなものかと思ったのが、以下に紹介する「ビーガン検定」というもの。

https://vegelifestylist.com/

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000044921.html

みんなのごはんという会社が運営するもので、2級・1級・Pro級の3つのランクがあります。検定だけでなく講習も受けると、取得には2級で12,650円、1級は43,450円、Pro級は86,900円が必要になりますが、2級と1級は検定だけの受験も可能のようです。

さて、世のトレンドに乗ってビジネスをするというのは当然のことですし、それによって社会はよりよいものになっていくのでしょう。それでも、このビーガン検定は、ヴィーガニズムの捉え方が浅薄で、正しい理解につながらないと思えてなりません。以下に1級のカリキュラムを引用してみます。

ビーガン・べジの市場動向、種類毎のニーズと実践的な対応法、メニュー導入・食品開発のポイント、食材の置き換えと調理のポイント、栄養と留意点、サスティナブルな社会との関係(環境・食糧・動物福祉)

飲食業の人がヴィーガンやベジタリアンに食事を出すときには確かに役に立つかもしれませんが、少なくとも以下の2つの点で不十分だと考えます。

1.哲学的な背景が分からない

ビジネスとしては必須ではないかもしれませんが、上記のカリキュラムは、ヴィーガニズムやベジタリアニズムの哲学的・倫理学的な背景に触れていません。最後に「動物福祉」の文字は見えますが、「サスティナブル」という枠組みの中に位置づけられた動物福祉とはいったい何でしょうか。

2.食しか対象にしていない

ヴィーガニズムは、倫理学的な立場の違いはあるにせよ、動物を搾取しないということが理論の柱にあります。動物を搾取しないために動物を食の対象としないのであって、その逆ではありません。動物を搾取しないためには食だけでは不十分で、生活のあらゆる面を考慮する必要があります。しかし、この検定はあくまで食事面での対応のみを取り扱ったもののようです。

ヴィーガニズム・ベジタリアニズムが世に広まるのは望ましいことと考えていますが、この検定は「ビーガン検定」というよりは「ビーガン食検定」のようです。試しに受験してみようかとも思いますが…それはあくまでここで書いた内容を確認するためであって、ヴィーガニズムを推進するために、あるいはヴィーガニズムをより深く学ぶためにこの検定を受けようとは思えないことが、大変残念です。

ヴィーガニズムにまつわる誤解

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ヴィーガニズムがどのようなものかについては、色々な誤解があります。以下の記事で主要な5つのものについて語られていますが、日本ではどうかという観点も踏まえたうえで、私自身の考えを織り交ぜながら説明していこうと思います。

https://www.mensxp.com/special-features/features/84289-common-myths-about-veganism.html

ヴィーガニズムとベジタリアニズムはおなじもの

これについては本ブログでも書いていますので、そちらも参照いただければと思います。

大まかに言うと、ベジタリアニズムが基本的には食生活にかかわる概念であるのに対して、ヴィーガニズムは生活全般についてのものです。ベジタリアンは肉や魚を食べることを避ける一方で、皮革製品を身につけることには疑問をもたないかもしれません。ヴィーガンですと、動物を搾取すること全体を不可と考えるので、食生活から肉や魚や牛乳や卵を除くのと同時に、衣類や家具、医薬品など、自身が使用・消費するあらゆるものについて、動物由来の原料を使っていないものを選択しようとします。

ただし、ベジタリアンと名乗る人の中にも、実際には動物の解放・福祉といった観点からそうした選択をする人は大勢います。私自身も、ヴィーガンという呼び方がまだ日本では一般的でないということもあり、ベジタリアンと自称することは度々あります。ベジタリアンと自称しているからヴィーガンではない、というわけではありません。

ヴィーガンはタンパク質不足

普通の食生活から単純に動物性のものを排除しただけでは、タンパク質不足になります。これは否定しようのない事実です。

しかし、ヴィーガンがタンパク質を摂るための手段は多数あります。リンクした記事には豆類、ドライフルーツ、大豆といった食材が書かれています。日本では、とくに豆腐や納豆といった大豆製品が有力なタンパク源になるでしょう。そのほか、海外で主要なものとしてはキヌアがあります。こちら、日本でもカルディなどで売られていますし、ネットで購入することもできます。ただし、大豆に比べるとかなり割高になります。

もっと効率のよいものとしては、大豆由来のプロテイン(ソイプロテイン)があります。ただし、ものによってはソイプロテインと銘打っていても乳を含んでいるものがあるので、よく成分を確認することが必要です。

ヴィーガニズムは高くつく

これも一面の真理を含んでいると思います。普通の食生活から動物由来のものを取り除くだけであれば、食費は安くなるでしょう。皮革製品を合皮にか変えても、やはり出費は安くすむと思います。しかし普通の食生活と同じ程度のタンパク質を摂取しようと思うと、食費はかえって高くなる可能性があります。

とくに日本では農作物の価格が高いこともあって、輸入の肉類と大豆製品を比べると、タンパク質含量あたりの単価はどうしても肉類の方が安くなります。もちろん、もともと高級な肉ばかり食べているようなら、ヴィーガンになったほうが食費も安くなります。

また、これも日本ならではですが、外食が異様に安いということもポイントです。もちろん普通のレストランであれば、スーパーで食材を買って作る家庭料理よりは高くつきます。しかし、牛丼のような安さを売りにした店は、自炊するのに近い単価で食事を提供しています。残念ながら、こうした店がヴィーガン向けのメニューをもっていることはありません。もともと外食中心の食生活を送っている場合、ヴィーガンになると食費が高くなると思います。

こうしたことを踏まえた上で、多少タンパク質の摂取量を減らすことが、食費を維持するためには必要になります。

豆乳だけが選択肢

牛乳は多くの人にとって重要な栄養源であり、デザート類の味をよくするための原材料でもあるでしょう。栄養源という観点からは、植物由来の素材でも代替しやすいものです。

その一方で、デザート類、菓子類には、牛乳を使用しているものが無数にあります。普通の食生活を送っていると意識することはないかもしれませんが、試しにスーパーの菓子コーナーで原材料を確認してみれば、とくに西洋系の菓子のほとんどに乳製品が使われていることに気づくはずです。

牛乳の代替品としては、豆乳の他、リンク先に書かれているようにココナッツミルク、アーモンドミルク、ヘンプミルク、カシューミルク、ライスミルクなど、いろいろなものがあります。飲み物として消費するのであれば、多少高くはなりますが、これらのうちに気に入るものがあれば、ヴィーガンとなって困ることは少ないでしょう。

しかし、菓子を中心として、もともと多くの食材に牛乳が使われているということは、ヴィーガンにとって厄介です。パンについても、普通のスーパーの売り場には乳製品を使っていないものはほとんど置いてありません。スープも、クリーム系のもので豆乳などをベースにしているものは普通は見かけません(なお、クリーム系でなくても、スープはコンソメやチキンエキスなど使用しているので、普通のスーパーではヴィーガンの選択肢は皆無です)。

こうした利便性の面での不自由を受け入れた上で、もし乳製品を使った味をそれでも楽しみたい場合は、そうした製品が売られている店を探すか、通販を利用するか、自身で作るかする努力が必要です。

ヴィーガンは弱くなる

これも、普通の食生活から動物性のものを除くだけだったとしたら、事実でしょう。ヴィーガンという生き方を選択するなら、栄養についてはある程度意識しなければなりません。

かし、ヴィーガンだと体が弱くなるかといえば、そんなことはありません。それは、私自身の実践から、確信をもって言えます。

私は10年以上ヴィーガンをしています。風邪くらいはひくことがありますが、ヴィーガンになってから病気になりやすくなったということも、大病を患ったことも、気力が出ないとか体がだるいといったこともありません。

健康診断の結果も、まったく異状なしです。ただし、最初はヘマトクリット値が低いと診断されたことはありました。もともとそういう体質だったのか、ヴィーガンとなったからなのかは分かりませんが、その後鉄分を意識して摂るようにしてからは、その問題もなくなりました。

もともと何かしら体に問題がある場合には、動物性のものを摂らなくなることで健康に害が生じることはあるのかもしれません。あくまで自身の可能な範囲で試してみてもらえればと思います。もともと健康ならば、少し栄養のことを意識するだけで、ヴィーガンとなっても特段の問題は起こらないでしょう。関心があれば、まずは短期間だけでも、実践してみてはいかがでしょうか。

観光庁主催のベジタリアン・ヴィーガン受け入れセミナー

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新型コロナウイルスのため観光産業は苦境に立たされていますが、2021年1月14日に観光庁がインバウンドを意識した、ベジタリアン・ヴィーガン受け入れ対応のための無料オンラインセミナーを実施するそうです。ホームページを見る限りでは、先着50名なら誰でも受講できるようです。

その内容はホームページをご覧いただきたいのですが、少し気になることがありました。ベジタリアンやビーガンについて触れた文章でよく見かける表現ではあるのですが…ホームページから引用してみます。

他国では一般的となってきたところもある、ベジタリアン・ヴィーガンと言った食文化

https://hotelbank.jp/%E8%A6%B3%E5%85%89%E5%BA%81%E4%B8%BB%E5%82%AC%E3%83%99%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3%E5%8F%97%E3%81%91%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%82%AA/

ベジタリアニズムやヴィーガニズムははたして「食」「文化」なのか。

まず「文化」という言葉。これは歴史的に自然に形成されてきたものを指す言葉だと思うのですが、ヴィーガニズムは文化でしょうか。少なくとも倫理学的な背景からヴィーガンとなることを選択した私にとって、その選択を文化と呼ばれることには非常に違和感があります。イギリスやアメリカやオーストラリアの哲学者たちがヴィーガンとなるのは、文化のためでしょうか(アングロ・サクソン文化?)。

あるいは、ヒンドゥー教徒がラクトベジタリアンであること。単に食事だけに関することとか、食を起点として広がる一連の実践であるなら、文化という捉え方もできるのかもしれません。しかしヒンドゥー教のラクトベジタリアンの場合は文化だからそういう食生活を送っているのではなく、もっと大きなヒンドゥー教という枠組みの中での具体的な実践の一例として肉を食べないのですから、その食生活自体を文化と呼ぶことは難しいのではないでしょうか。

それから、「食」という言葉。確かにベジタリアンという言葉には食に関する選択だという含みが強いと思います。たしかに、肉が嫌いだからとか、肉を食べないほうが体型維持によさそうだといった理由でベジタリアンとなった人も少なくはありません。世間一般の理解も、ベジタリアンやヴィーガンというのは食に関する選択だというものでしょう。

しかし、少なくとも一部のベジタリアンやヴィーガンは、「動物を苦しめるべきではない」とか「環境に対する負荷をできる限り小さくしなくてはいけない」といった価値観のもと、包括的な実践の一部として、肉を食べないという選択をしているのです。だから、革製品を買わなかったり、動物園や捕鯨に反対していたりもするのです。

食は人間が生きるうえで日常的な不可欠の要素なので、そのぶん配慮すべき場面が多くなります。それでも、ベジタリアニズムやヴィーガニズムを食についてのものと捉えるのでは、スコープが狭すぎます。

今回のセミナーは、紹介文を書いた人の理解あるいは配慮が足りないだけで、実際には動物解放論などの思想的背景にも触れてくれるものなのかもしれませんし、そうであることを願います。一方で、もしあくまで「食文化」としてベジタリアニズムやヴィーガニズムを捉えたものなら、料理だけベジタリアン対応にしておいて昼間は水族館に行くようなツアーも問題ないことになってしまいます。