月: 2021年3月

ビーガン検定はヴィーガニズムの一部しか捉えていない?

No Comments

ヴィーガン、ヴィーガニズムについての理解が深まるのは善いことだと思いますし、細々とではありますがそのために私もここでときどき情報を提供しています。ただ、これはいかがなものかと思ったのが、以下に紹介する「ビーガン検定」というもの。

https://vegelifestylist.com/

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000044921.html

みんなのごはんという会社が運営するもので、2級・1級・Pro級の3つのランクがあります。検定だけでなく講習も受けると、取得には2級で12,650円、1級は43,450円、Pro級は86,900円が必要になりますが、2級と1級は検定だけの受験も可能のようです。

さて、世のトレンドに乗ってビジネスをするというのは当然のことですし、それによって社会はよりよいものになっていくのでしょう。それでも、このビーガン検定は、ヴィーガニズムの捉え方が浅薄で、正しい理解につながらないと思えてなりません。以下に1級のカリキュラムを引用してみます。

ビーガン・べジの市場動向、種類毎のニーズと実践的な対応法、メニュー導入・食品開発のポイント、食材の置き換えと調理のポイント、栄養と留意点、サスティナブルな社会との関係(環境・食糧・動物福祉)

飲食業の人がヴィーガンやベジタリアンに食事を出すときには確かに役に立つかもしれませんが、少なくとも以下の2つの点で不十分だと考えます。

1.哲学的な背景が分からない

ビジネスとしては必須ではないかもしれませんが、上記のカリキュラムは、ヴィーガニズムやベジタリアニズムの哲学的・倫理学的な背景に触れていません。最後に「動物福祉」の文字は見えますが、「サスティナブル」という枠組みの中に位置づけられた動物福祉とはいったい何でしょうか。

2.食しか対象にしていない

ヴィーガニズムは、倫理学的な立場の違いはあるにせよ、動物を搾取しないということが理論の柱にあります。動物を搾取しないために動物を食の対象としないのであって、その逆ではありません。動物を搾取しないためには食だけでは不十分で、生活のあらゆる面を考慮する必要があります。しかし、この検定はあくまで食事面での対応のみを取り扱ったもののようです。

ヴィーガニズム・ベジタリアニズムが世に広まるのは望ましいことと考えていますが、この検定は「ビーガン検定」というよりは「ビーガン食検定」のようです。試しに受験してみようかとも思いますが…それはあくまでここで書いた内容を確認するためであって、ヴィーガニズムを推進するために、あるいはヴィーガニズムをより深く学ぶためにこの検定を受けようとは思えないことが、大変残念です。

ヴィーガンシューズは環境によいのか?

No Comments

ヴィーガンになる動機にはいくつかの種類があります。

昨今もっとも多いのは、「環境によいから」という理由ではないでしょうか。畜産業が縮小すれば、その分飼料作物の必要が減って農地も要らなくなり、環境への負荷が小さくなります。また、畜産業はそれ自体が多くの温室効果ガスを発生させています。ヴィーガンになることで、こうした環境への悪影響を軽減しようというのが、最近ヴィーガニズムが注目されているもっとも大きな理由だと思います。

これに対し、「靴を選ぶ」という観点から、ヴィーガンシューズが必ずしもそうでない靴と比べたときに環境に対する負荷が小さいわけでもない、ということを論じたのが以下の記事。

https://www.gearpatrol.com/fitness/a35814566/why-vegan-shoes-are-not-saving-the-planet/

たとえば、ビーチサンダルにはふつう動物性のものは使用されていないので、ヴィーガンです。しかし、代わりにプラスティックが使用されています。買い物袋やストローが問題になるこのご時世で、はたしてリサイクルの見込みの薄いプラスティック製のサンダルや靴を生産することの環境負荷がどの程度になるのかは、よくよく計算しなければ評価できないでしょう。

加えて、人工皮革の原料であるポリ塩化ビニル(PVC)には、柔軟性をもたせるための可塑剤にフタル酸エステルなどが使用されています。これら可塑剤は内分泌攪乱物質として乳児用品への使用が制限されるなど、多少の危険を伴う可能性があるもので、人工皮革から溶出してくる可能性があります。環境に対する害という点でどのくらいのインパクトがあるのかは分かりませんが、人体への影響は多少あるのかもしれません。

ヴィーガン素材の一部に上記のような課題がある一方で、世界的なトレンドとして、動物素材を使用した靴が次第に環境に配慮したものになってきてもいます。また、靴用の皮革はそもそも食用とされる動物の本来は廃棄される部位であったりしますから、おおもとである食においてヴィーガニズムが広がらなければ、皮革を使用しようがしまいが変わらない、という可能性もあります。

上記のように、環境のことだけを考えてヴィーガンになろうとするのであれば、それは必ずしも正しい判断ではないという可能性があります。そもそも、環境への負荷を最小限にしようとするとき、「動物由来のものを一切使用しない」というのは最善解にはなりえないでしょう。靴だけでなく、その他の衣料品や食についてもそうですが、動物由来の原料を環境負荷が極めて小さくして利用できる場面は多々ありえるからです。たとえば、繁殖し過ぎた鹿を狩って、食料や皮として利用する場合は、環境に対する負荷はほぼゼロか、あるいは森林が荒らされるのを軽減するという意味で、かえって環境に対してプラスになるかもしれません。

環境のためにヴィーガンになるのなら、少なくとも単に動物由来の原料を使用していないということだけでなく、どのような原料を使っているのかまで、製品をよくよく見極める必要があるでしょう。

一方で、動物に対する搾取をやめるべきだと考える倫理的な観点からヴィーガンとなることを選ぶのであれば、やはり靴についてもヴィーガンの選択をすることになります(私もそうです)。

さて、最後に、ヴィーガンシューズをふたつ紹介します。有名な例なのでご存知かもしれませんが、アディダスがいまヴィーガン/サステイナブル志向のスニーカーを販売しています。

https://shop.adidas.jp/item/?sustainable=vegan

他にもネットで検索すればいろいろな製品が見つかるかと思いますが、私自身は以下のブランドのシューズを愛用しています。

https://www.bravegentleman.com/

千代田区が公式YouTubeチャンネルにて「食の多様性」を紹介

No Comments

千代田区公式YouTubeの取り組み

千代田区が公式YouTubeにて「食の多様性」を学ぶ動画を公開しています。

https://www.youtube.com/user/chiyodacity

ハラールについての紹介動画と並んで、【ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリーって何だろう?】というものもあります。

あくまで「食」に限っての違いを説明する動画としては、大変分かりやすいと思います。その一方で、これを見たからといってなぜベジタリアンやヴィーガンになるのかという理由については分かりません。また、いくつか気になる点もありました。

以下、本動画で不振に感じた点を挙げてみます。なお、その意図としては、ただ非難することではなく、ヴィーガンやベジタリアンについてより正確な・今の時代にあった情報提供をしていただきたいという思いと、そうした細部の補足をしたいという思いにありますので、誤解のないよう。

引用されている調査が古い

動画内で1992年のかなり古い調査結果が紹介されており、それによるとベジタリアンとなった理由の1番は「健康」で46%、ついで「動物愛護」15%、「家族・友人の影響」12%となっています。

その次に「論理的」5%となっていますが、これは「倫理的」の誤りではないでしょうか…?動画ではこれを飛ばして「環境問題」4%には触れていました。

この調査がいったいどのようなものだったのか、少し検索してみましたが分かりませんでした。いずれにせよ、現在のトレンドを紹介する資料で引用されている調査結果が30年前のものでは、説得力がありません。

ベジタリアンの語源は?

動画中にVegetarianという言葉が「Vegetusから来た」という説明がありますが、これはおそらく誤りです。

Oxford English Dictionaryによれば、ベジタリアンはvegetableと-arianの組み合わせにより生じたとされています。(-arianというのは、ある信念をもっている人を表す接尾辞です。)

なお、ヴェジタリアンという言葉がVegetusから来たという説の由来や信憑性の低さを説明するものとして、以下のサイトがあります。

https://www.macquariedictionary.com.au/blog/article/165/

日本にヴィーガンは何人いるのか?

日本にヴィーガンが500万人以上いる、あるいは、日本人のヴィーガン割合が2.7%という説明もありましたが、これも、個人的には疑わしく思っています。以前ベジタリアン協会の講演を聞いたことがありますが、その時も同様の数字が紹介されていました。

私自身はヴィーガンですし、ヴィーガンが増えればよいと思っていますが、それにしてもこの数字は楽観的過ぎるのではないでしょうか。人口の2.7%とすると40人に1人以上はヴィーガンということになります。

たとえば以下の調査ではヴィーガンが2.1%となっていますが、これは「取り組んでいる食生活」を答えるもので、おそらく「毎食ではないがときどきそのような食生活を選択することがある」ような人も多少含んでいるのではないかと思います。

こうした数字を見る限り、日本人口の2.7%がヴィーガンというのはちょっと信じられません。

以上、気になったポイントをいくつか挙げてみました。行政としてこのような動画を作成した千代田区の取り組みはすばらしいものと思います。ただ、せっかく作るのであれば、もっと説得力のあるデータや議論を用意したうえで、ベジタリアニズムやヴィーガニズムがそもそも何を目的としたものなのかという議論まで含めていただきたいものです。